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「飲み込みにくそうにしている」「食事中にむせることが増えた」——ご家族のそうした変化に気づいたとき、はじめて嚥下食という言葉を知る方は少なくありません。
嚥下食は、噛む力や飲み込む力が低下した方に配慮し、食べにくさや誤嚥のリスクを減らしながら、食事をおいしく続けるためのものです。ただ、いざ調べてみると分類が細かく、どれを選べばよいのか迷ってしまう方が多いのも事実です。
この記事では、嚥下食とは何かという基本から、種類の見方、そして実際の選び方までをまとめました。
嚥下食を日々製造している立場から、できるだけ分かりやすくお伝えします。

嚥下食とは、飲み込む力(嚥下機能)が低下した方に配慮して、食べ物のやわらかさ・まとまりやすさ・のどごしなどを調整した食事のことです。
食べる方の状態に合った形態を選ぶことで、食べにくさや誤嚥のリスクを減らし、必要な栄養をとりやすくすることを目的としています。
「嚥下」とは、口に入れた食べ物や飲み物を、のどから食道を通して胃へ送る一連の動きのことです。
健康なときには意識することの少ない動作ですが、加齢や病気などによって嚥下機能が低下すると、水やお茶でむせる、食事に時間がかかる、食べ物がのどに残るといった変化が現れることがあります。
飲み込む力の低下は、低栄養や脱水を招くだけでなく、食べ物や唾液などが誤って気管に入り、誤嚥性肺炎につながることもあります。
東京都健康安全研究センターが2018年に公表した推計では、誤嚥性肺炎による死亡者数は、2030年に約12万9,000人に達すると予測されています。
嚥下食は、食べる方の状態に合ったものを選ぶことで、こうしたリスクに配慮しながら、必要な栄養と「食べる楽しみ」を支えるための手段の一つです。
参考:東京都健康安全研究センター「人口動態統計からみた日本における肺炎による死亡について」
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/archive/issue/kenkyunenpo/nenpou69/69-33.pdf
介護食は、噛む力や飲み込む力が弱くなった方向けの食事全般を指す、広い言葉です。嚥下食はその中でも、特に「飲み込みやすさ」に重点を置いた食事を指します。
ソフト食とは、大根のやわらか煮など、食材の見た目や形をできるだけ保ちながら、噛みやすく仕上げた食事です。
ムース食は、食材を細かくすりつぶしてなめらかにし、ムース状に固めた食事です。舌や歯ぐきでつぶしやすく、まとまりやすいため、噛む力や飲み込む力が低下した方に利用されています。
ソフト食やムース食は、食べる方の状態によって、介護食や嚥下食の一種として扱われます。
言葉の関係を整理すると、次のようになります。
| 言葉 | 指す範囲 | 重点 |
| 介護食 | 最も広い。噛みにくさ・飲み込みにくさの両方に対応 | 食べやすさ全般 |
| 嚥下食 | 介護食の一部 | 飲み込みやすさ・誤嚥リスクへの配慮 |
| ソフト食 | 嚥下食の一形態 | やわらかさと見た目の両立 |
| ムース食 | 嚥下食の一形態 | なめらかさ・均質さ |
これらの言葉は現場でも使い分けが揺れることがあり、施設や病院によって呼び方が異なる場合もあります。大切なのは名称よりも、その方の状態に合っているかどうかです。
ムース食との違いについては、こちらの記事でより詳しく解説しています。
嚥下食の分類には、主に「学会分類」と「ユニバーサルデザインフード(UDF)」の2つがあります。前者は医療・介護の現場で、後者は市販品のパッケージ表示で使われることが多い分類です。
医療・介護の現場で使われる「学会分類」
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定めた分類で、飲み込みやすさの段階を細かく区分しています。ゼリー状のものからやわらかい固形物まで、段階的に整理されているのが特徴です。
病院や施設では、この分類にもとづいて「コード◯の食事」という形で指示が出されます。ご家族が退院時に受け取る指示書に、この分類が書かれていることがあります。その場合は、書かれた段階に合った食事を用意することになります。
分類の詳細は学会が公表していますので、正確な内容は学会の資料をご確認ください。
市販品でよく見る「ユニバーサルデザインフード(UDF)」
日本介護食品協議会が定めた規格で、UDF規格に適合した商品には、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」のいずれかが表示されています。

市販品を買う際に最も分かりやすい目安がこれです。まずはこの区分を手がかりに選び、実際に食べていただいた様子を見て調整していくのが現実的な進め方です。
このほか、農林水産省が定めた「スマイルケア食」という分類もあります。青・黄・赤のマークで区分され、栄養補給が必要な方から噛むこと・飲み込むことが難しい方までを段階的に整理しています。
選ぶときの出発点は、区分の数字よりも「その方が今どこでつまずいているか」です。噛むのが難しいのか、飲み込むのが難しいのか、あるいは飲み物でむせるのか。つまずく場所によって、選ぶべきものが変わります。
実際にお客様のお話をうかがっていると、食べにくさは次の3つの状況に分かれることが多くあります。
1.固形物は食べられるが、時間がかかる・疲れる
まずは、UDF(ユニバーサルデザインフード)の「容易にかめる」または「歯ぐきでつぶせる」程度のやわらかさが選択肢になります。
たとえば、普通のご飯をやわらかいご飯や全がゆに替えたり、焼き魚をやわらかく煮た魚に替えたりする方法です。
必要以上に細かくしたり、ペースト状にしたりすると、料理の見た目や食感が失われ、かえって食欲が低下することもあります。
2.食べ物のかたまりが飲み込みにくい・のどに残る感じがある
UDFの「舌でつぶせる」「かまなくてよい」食品や、なめらかなムース状・ペースト状の食品が選択肢になります。
ただやわらかいだけでなく、口の中でばらけにくく、適度にまとまりやすいことも大切です。
ただし、飲み込みにくさの原因や程度は人によって異なります。むせやのどに残る感じが続く場合は、自己判断で食事を変更せず、医師や言語聴覚士、管理栄養士などに相談してください。
3.水やお茶を飲むとむせる
水やお茶のようにサラサラした液体は、のどへ流れ込む速度が速いため、飲み込む力が低下した方はむせることがあります。
その場合は、とろみ剤を使って飲み物に適度なとろみをつけたり、はじめからゼリー状になった水分補給用の商品を利用したりする方法があります。
とろみの濃さは、その方の状態に合わせる必要があります。濃くすれば安全とは限らないため、むせが見られる場合は専門家に相談しましょう。

※飲み込む力の状態を正確に判断するには、専門的な検査が必要です。かかりつけの医師や、言語聴覚士・管理栄養士にご相談ください。
※この記事は一般的な情報をお伝えするもので、個別の状態に対する判断に代わるものではありません。
手作り・市販品・宅配や通販の3つがあります。それぞれに向き不向きがあり、どれか1つに決める必要はありません。多くのご家庭が、実際には組み合わせて使っています。
| 方法 | 向いている場面 | 気をつけたい点 |
| 手作り | 好みに合わせたい/食材にこだわりたい | ミキサーやゲル化剤が必要。毎食続けるのは負担が大きい |
| 市販品 | 買い物のついでに手に入れたい | 種類や取り扱い店舗が限られる。区分表示の確認が必要 |
| 宅配・通販 | 続けて必要/献立を考える余裕がない | 配送コストがかかる。冷蔵・冷凍の保管場所が要る |
私たちが製造の現場でよく耳にするのは、「最初は手作りしていたが、続かなかった」というお声です。
嚥下食づくりは、下ごしらえ・加熱・裏ごし・とろみ調整と工程が多く、これを毎日3食続けるのは想像以上の負担になります。
これは手を抜くという話ではありません。続けられる形にすることが、結果としてご家族とご本人の双方を守ることにつながります。市販品や宅配を使うことに、うしろめたさを感じる必要はありません。
確認したいのは、区分表示・原材料・保存方法・一食あたりの量の4点です。
区分表示
前述のUDF区分やスマイルケア食のマークを確認します。UDF規格に適合していない商品でも、「容易にかめる」「舌でつぶせる」など、食べやすさの目安が表示されていることがあります。
区分表示は選ぶ際の目安になりますが、やわらかいほど安全とは限りません。現在食べられている食事のかたさや形状を確認し、むせやのどに残る感じがある場合は、医師や言語聴覚士などに相談しましょう。
原材料とアレルギー表示
持病がある方、食事制限がある方は必ず確認してください。塩分やたんぱく質の調整が必要な場合もあります。
保存方法(常温・冷蔵・冷凍)
常温保存できるレトルトは扱いやすい一方、冷蔵・冷凍のものは食感や風味が保たれやすい傾向があります。冷蔵庫に余裕があるかどうかは、続けるうえで意外に大きな要素です。
一食あたりの量
高齢の方は一度に食べられる量が少ないことも多く、量が多すぎると残してしまいます。反対に、少量でもエネルギーやたんぱく質を補える商品もあります。
市販の嚥下食には、主食・主菜・副菜が一つの容器に入った「お弁当タイプ」と、それぞれが小分けされたタイプがあります。
お弁当タイプは一食分をまとめて準備できるため便利ですが、食べる量を細かく調整しにくい面があります。小分けタイプなら、「主菜は1個、副菜は半分」など、その方の食欲や食べられる量に合わせて組み合わせられます。
普段どのくらい食べられているかを確認し、無理なく食べ切れる量と形態の商品を選びましょう。

私たちアオイコーポレーションは、高知県で病院・高齢者施設向けの給食事業を行うなかで、嚥下食の製造に取り組んできました。施設の現場で必要とされてきたものを、ご家庭でも使っていただけるようにしたのが通販ブランド「ふるる」です。
なめらかさと口あたりを大切にしたムース食のほか、水分補給を助けるゼリーや水ようかんなど、飲み込む力が弱くなった方でも楽しみやすい品目をそろえています。
はじめての方には、複数の種類を組み合わせたセットをおすすめしています。同じようなやわらかさの食品でも、食材や味、口当たりによって食べやすさは変わるためです。
嚥下食を選ぶときには、「やわらかければ大丈夫?」「きざみ食ではいけないの?」など、さまざまな疑問が出てきます。ここでは、嚥下食についてよくある素朴な疑問にお答えします。
一度むせただけで、すぐに嚥下食へ替える必要があるとは限りません。急いで食べたときや、話しながら食べたときにも、むせることはあります。
ただし、むせる回数が増えた、食事に時間がかかる、食べ物がのどに残る、食後に声がかすれるといった変化が続く場合は、かかりつけの医師や言語聴覚士などに相談しましょう。
やわらかければ必ず安全というわけではありません。口の中やのどに付着しやすいもの、水分が分離するもの、細かくばらけるものは、やわらかくても飲み込みにくいことがあります。
かたさだけでなく、まとまりやすさ・べたつき・水分の分離なども確認し、その方の状態に合ったものを選ぶことが大切です。
細かく刻んだだけの「きざみ食」は、口の中でばらけやすく、かえって飲み込みにくくなることがあります。
きざみ食を用意する場合は、必要に応じてあんやとろみを加え、食べ物をまとめやすくする工夫が必要です。飲み込みに不安がある方には、ムース食やペースト食などが適している場合もあります。
水やお茶のようにサラサラした液体は、口に入れるとのどへ速く流れます。そのため、食べ物は飲み込めても、飲み物ではむせる方がいます。
その場合は、とろみ剤で流れる速さを調整したり、ゼリー状の水分補給用商品を利用したりする方法があります。ただし、とろみの濃さは自己判断で決めず、専門家に相談してください。
「噛む力」と「飲み込む力」は同じではありません。歯がそろっていて固形物を噛めても、のどへ送り込む力が低下していることがあります。
噛めるかどうかだけでなく、飲み込むときのむせや、のどに残る感じがないかも確認する必要があります。
嚥下食は、噛む力や飲み込む力が低下した方に配慮し、食事を続けるためのものです。
市販品を選ぶときは、UDFなどの区分表示が一つの目安になります。ただし、同じ区分でも食品の形状や口当たりは異なり、やわらかければ必ず食べやすいとは限りません。
普段食べているものや、食事中のむせ、のどに残る感じ、食べ終わるまでの時間などを確認し、その方の状態に合ったものを選ぶことが大切です。
また、嚥下食を毎食手作りすることは、ご家族にとって大きな負担になります。手作りだけにこだわらず、市販品や宅配・通販を組み合わせ、無理なく続けられる方法を選びましょう。
飲み込みにくさが続く場合や、水やお茶でむせる場合は、自己判断だけで食事形態を決めず、かかりつけの医師や言語聴覚士、管理栄養士などにご相談ください。